4重層造による性格論(4)

 

◉狭義の性格(人格)

性格の4層構造の」うち、核となる気質「生まれつきの部分」とするならば、「狭義の性格(人格)」以降の3層は「生まれてからの環境によって形成される部分」となります。

気質のすぐ周りを「狭義の性格(人格)」が包み込んでいると考えます。

ところで「人格」という概念ですが、一般的な通念から心理学や精神医学での定義までさまざまな解釈があり、その使用についてはなかなか難しいのですね。

たとえば、「あの人は人格者だから信頼できる」などと使う場合には、「公明正大で邪心がなく、人のために尽くす高潔な人」といったような人物を評する場合に使います。「人格」の定義の中に道徳的な価値判断が含まれているわけです。

しかし、心理学や精神医学で「人格」という場合、道徳的な価値判断はいっさい含まれません。
  
また、英語のpersonalityの訳語として性格 ・人格の両方が使われており、それぞれの意味が曖昧なまま同義語として用いられる場合も多々あります。personalityという単語自体も、扱う分野や学説によってその概念規定は微妙に異なっています。

たとえば、
世界保健機関(WHO)でのpersonality(性格・人格)の定義では、
 「個人に特有の思考・感情・行動の持続的で一貫性のあるパターン」

精神医学の疾病分類マニュアル(DSM-Ⅳ)におけるパーソナリティ障害の項のpersonality(性格・人格)の定義では、
 「認知・感情・対人関係・衝動性の領域にわたる持続的で一貫性のある傾向」
  

以上のように規定されています。

さらに、「気質(temperament)・性格(character)・知能(intelligence)」を包括するものとして「人格(personality)」と定義する場合もあります。

そういったわけで、今回の「4層構造による性格論」では気質の次に形成される性格として、「人格」とすると誤解を生ずる可能性もあるので、とりあえず「狭義の性格(人格)」とします。


「狭義の性格(人格)」は幼少期(0~3歳頃まで)、養育者(たいていの場合は母親)の影響によってほぼ形成されます。
  
前にも記した通り、この狭義の性格は、大人になってからはほとんど変わらないといわれています。多少は変えることもできますが、キモは、いかにその狭義の性格を受け入れ、自己の人生に上手く活かしてゆくか・・・という問題になります。

そのためには自分の人格を客観的に捉え、その傾向性を認識することが大切なんですね。

では、「狭義の性格(人格)」を決定づける、幼少期における養育者の影響とはどのようなものでしょうか。

乳幼児は、たいていの物質的な環境はそのまま受け入れ、適応することができます。しかし養育者との関係における精神的環境は、その人格形成にとって大きな意味を持ちます。

乳児(赤ちゃん)にとって最も重要な環境とは何か?

 

愛情と保護です。そのなかで乳児は、自分がより大きな存在としっかりとつながっており、自分が安全に守られている存在だということを、心と体で身につけます。これによって両者の間に愛着関係が形成されます。

乳児期が終わり、よちよち歩きを始めた頃から、こどもは次の段階を迎えます。
この間に、こどもは徐々に養育者(母親)からの分離を成し遂げます。
  
この分離がスムーズにいくためには、養育者が子どもの欲求を適度に満たしながら、同時に、自分の手から徐々に離していかなければなりません。速すぎず遅すぎず、分離→個体化を促します。

もうひとつ重要な課題が、「対象恒常性」の発達です。
  
乳児期の子どもにとっての養育者(母親)は、そのときどきで、欲求を満たしてくれる=良い養育者、欲求を満たしてくれない=悪い養育者と分裂している存在です。→「部分対象関係」

幼児期になると、それまでの分裂した存在が、一人の同じ人間(養育者)とのトータルな関係として受けとめられるようになります。→「全体対象関係」
  
部分対象関係から全体対象関係へと移行することで「対象恒常性」が順調に発達するわけです。
  
以上のように、乳幼児期に養育者がどう関わるかで「狭義の性格(人格)」は形成されてゆきます。